時代はRE3.0へ
【RE3.0-再エネ3.0③】需給が相互に追従するという考え方(供給編)
RE3.0
電力消費と再エネ発電がお互いにフォローし合うという考え方
前々回の記事で、私たち電力シェアリングは、独自の考え方で、電力システムの脱炭素化は以下の4段階を経て進行し、今は再エネ3.0を迎えていて、この段階に適切な政策・規制の導入が必要だと問題提起を致しました。
そして、前回の記事では、再エネ3.0(RE3.0)時代にさらに再エネの導入を進めるには、需要と供給が相互にフォローし合う世界観を実現することが重要だと説明しました。また、そこで、電力の消費をできるだけ、再エネ供給の多い時間帯にタイムシフトする努力を、しっかりと評価・スコアリングして行動変容を促す、当社が特許取得した独自の手法を説明しました。
この記事では、反対に、再エネ発電をできるだけ、電力消費の多い時間帯にタイムシフトする努力を、しっかりと評価・スコアリングして行動変容を促す、当社が特許取得した独自の手法を説明します。
日本や多くの諸外国においては再エネに占める太陽光発電の割合が大きく、どうしても再エネ発電は昼間に集中してしまいます。一方で、家庭での電力消費者、出勤前の朝や、帰宅後の夕方から晩に集中してしまい、ギャップが生じてしまっています。
そこで、その切り札として期待されているのが蓄電池(定置式や電気自動車のV2H/V2G)です。ただし、蓄電池は高価で、現時点では導入コストが期待される収入を上回ってしまっていて、近い将来バッテリー・パリティが完全に実現されるという100%の保証がないなかで、その導入は必ずしも進んでいません。
蓄電池を活用したり、昼間以外での再エネ発電を促すタイムシフト価値が現状の制度では一般に埋没していて、しっかりとしたインセンティブが与えられていないことが問題です。
そこで、私たちは、再エネ発電所固有のCO2排出回避係数を用いた評価手法を発明し、今般特許を取得しました。その内容は以下のようなものです。
再生可能エネルギーは、一般にCO2を排出しません。ゼロエミッションです。それは、それ自体環境価値を有しています。これを絶対的環境価値と呼ぶことにしましょう。
一方で、相対的環境価値を考えてみます。それは、「再エネ発電をすることで、もしも、再エネではなく石炭で発電をしていたら起こっていたCO2排出を回避できた価値」という、他の発電手法との相対的有意性を評価するものです。実は、日本のJクレジットなどのいわゆるオフセット証書はこの考え方を用いています。
例えば、石炭火力により発電される電力量1kWhあたり発電所から排出されるCO2の量が800gだったとします。(800g-CO2/kWh)。この時、新しく太陽光発電を始めて、石炭火力の稼働を止めることができます。そこで発電される再エネは1kWh当たりCO2の排出量は0gですから、CO2排出を回避した量は800g(=800-0)で、この分、この再エネ発電は1kWh当たりの800g-CO2の排出を回避できた相対的な環境価値を創造したとみなすことが可能です。
1kWhあたりのCO2排出回避量をCO2排出回避係数と呼びます。一般にわが国で流通するオフセット証書では、一律に約0.4kg-CO2/kWhを用いています。
従って、ある発電所が500kWhを発電したとして、そのCO2排出回避量は、
500 kWh X 0.4 kg-CO2/kWh = 200 kg-CO2
となります。
ところが、厄介なのは、これはあくまでも相対的な環境価値なので、相手の発電所のCO2排出量によって、その価値の量が変わるということです。
例えば、ある島(A島)で1つの石炭発電所で発電された電気を住民が消費していたとします。その石炭火力は、先ほどの例と同じく、1kWh当たり800gのCO2を排出していたとします。
ある時、住民集会で、「わたしたちの島も脱炭素化しよう。石炭火力発電所を廃止して再エネ発電所を新規に建設しよう」と決めて実際に再エネを導入したとします。その時の、CO2排出回避係数は先ほどと同じく
石炭火力の排出係数 800g-CO2/kWh ー 再エネの排出係数 0g-CO2/kWh = 800g-CO2/kWh
となって、再エネ発電1kWhあたりのCO2排出回避量(排出回避係数)は800g-CO2となります。当たり前ですね。
ところが、隣の島(B島)では、元々は石炭火力発電よりはCO2排出の少ない、ディーゼルで発電していて(600g-CO2/kWh)、これを同様に再エネに置き換えたとします。
この時の再エネ導入によるCO2排出回避係数は
石炭火力の排出係数 600g-CO2/kWh ー 再エネの排出係数 0g-CO2/kWh = 600g-CO2/kWh
となります。つまり、同じ再エネ発電なのに、そのCO2排出回避量は、800gと600gで200gも差が出てしまうのです。これが、相対的な環境価値です。
時間毎に異なる再エネの相対的環境価値
もう少し現実世界で考えてみましょう。電気は一般に貯めることができないので、送配電ネットワークにおける全電源の加重平均CO2排出係数は昼夜間で大きく異なります。
例えば以下は、東京電力送配電ネットワークの電源種別発電量を基に当社が概算した係数です。
1kWh当たりのCO2排出係数は、昼は概ね400g-CO2なのに対し夜は2倍近くの700g-CO2になります。
仮に再エネ発電所Aは昼間しか発電せず、再エネ発電所Bは夜しか発電しないとします。
どちらも発電に際してCO2を排出しないという点では、絶対的な環境価値は同じです。
一方で、送配電ネットワークにおける排出回避による、相対的な環境価値は大きく異なります。
直観的に、CO2濃度の高い時間帯に、全く濁りのない再エネ電力を投入した場合のほうが、つまり夜に新しく追加的に再エネ発電所を導入したほうが、昼に既に再エネがかなり導入されていてCO2濃度が低い時間に新しく再エネ発電所を追加して建設する場合より相対的な環境価値が大きくなるのは直観的にお判りいただけると思います。それでは、それを客観的な尺度で、評価することはできるのでしょうか。
それが、私たちの発明の要諦です。
昼に再エネを1kWh発電することで回避されるCO2排出量は300gならば、その相対的な排出回避価値は300g
夜に再エネを1kWh発電することで回避されるCO2排出量は700gならば、その相対的な排出回避価値は700g
となります。つまり、再エネ発電がなされている時間帯における送配電ネットワークの加重平均全電源CO2排出係数そのものが、再エネを追加的に導入することによる相対的なCO2排出回避価値=新しく創出される環境価値とみなすことは可能です。
そして、例えば再エネ発電所に蓄電池を併設して、昼の再エネを一旦蓄電池に充電して、夜に放電して系統に売電することで、その再エネ価値は300gから700gに増やすことが出来て、それがタイムシフト価値となります。
つまり、再エネ比率の高い時間帯から低い時間帯に発電(放電)をタイムシフトすることで新たに創出される1kWh相対的環境価値は、
再エネのタイムシフト価値 400g/kWh = タイムシフト後の時間帯の送配電ネットワーク排出係数(700g/kWh)-タイムシフト前の排出係数(300g/kWh)
となります。このようにして、例えば蓄電池の放充電によるタイムシフト価値を埋没させずに、顕在化して、客観的・定量的に評価することで、バッテリー・パリティを実現して蓄電池の大量導入を促すことが可能になります。
これは、昼間に集中する太陽光発電を蓄電池を利用して、出力抑制により太陽光発電をみすみす活用できない現状への対策となります。
また、夜に発電する小水力やバイオマス発電にプレミアムを与えることで、全時間帯での再エネ比率の押し上げを期待することができます。
各再エネ発電所毎にユニークなCO2排出係数
ある再エネ発電所のある時間帯のCO2排出回避量は、その時間帯の発電量とその時間帯における送配電ネットワークのCO2排出係数の積で求められます。
その再エネ発電所の例えば1年間を通じたCO2排出回避量は、365日X24時間の各時間帯のCO2排出回避量を足し上げることで求められます。
この1年間の排出回避量を、その発電所の1年間の発電電量量で割ることで、その発電所固有の1年間のCO2排出回避係数を求めることができます。
この係数が大きければ大きいほど、その再エネ発電所(蓄電池)は、系統全体の再エネ比率が低い時に稼働(発電や放電)していることを意味します。
従って、再エネ発電所には、発電量の増加はもちろんですが、この係数の多寡でスコアリングして、評価しインセンティブを付与していくことで、再エネの全時間帯での均衡ある導入拡大を促すことが可能になります。